20人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあまた一ヶ月後、楽しみに待っててね!」
かなりの量のチーズを自費で購入し、運送屋は爽やかに手を振って再び貨物機に搭乗した。
集まった群衆が機体から距離を置くと、再び巨大な三枚板がバラバラと大きな音を立てて回り出す。風圧に耐えている彼らの前で、貨物機は吸い込まれるかのようにスルスルと上っていった。上空でエンジンが後方に切り替わる様子が見える。遠くなっていくプロペラの音。空は静けさを取り戻した。
集まった人びとが口々に驚きを表しながら散って行く中、リーナは貨物機が見えなくなってもまだ空を見上げていた。胸のあたりが温かい。脳裏には彼の笑顔が焼き付いていた。
それからひと月後、約束通り彼の飛行機はまた姿を現した。
例によってみんなが集まる中、運送屋のソラは喜び勇んで降りてきた。その手には必要量が記された注文書。
「納品量と報酬の数字を見たら、本当に目玉が飛び出すかと思ったよ」
今でもあの日の思い出話を始めると、牧場主のカーディンはそう語る。
ソラは都会で人気のレストランや問屋などにチーズを売り込んでくれたのだ。
見立てが良かったらしく、その後も需要は右肩上がり。その結果カーディン夫妻は牧場を拡張し、外地で働いていた男たちが少しずつ呼び戻された。
今ではロウデリーバレー全体でチーズ作りや牛の世話、燻製などの製作を行っている。その売り上げで穀物をまとめて買い、村で配るようになった。それからはソラの言った通り、家族が離れ離れにならなくて済んでいる。
ソラが窓口になってくれたお陰で都会の品物も簡単に手に入るようになり、以前は必要があると一週間のきつい旅に出掛けなければならなかったが、今は注文さえすれば気軽に物が手に入る。
外部との繋がりがあまりなかったこのロウデリーバレーも、これを機会に少しずつ拓けて便利なものや珍しいものを楽しめるようになっている。
最初のコメントを投稿しよう!