2. 黒い男

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2. 黒い男

リーナが野菜を手にキッチンに戻ると、ニーテはすでに学校の宿題を半分くらい終えていた。彼はいつも食堂の真ん中のテーブルで、背を丸めて勉強する。 「姿勢が悪い!」 大きな声で注意されると、ピンと背筋が伸びたが次の瞬間またネコのように丸まってしまった。 ノートに計算式を書いている弟の長い睫毛を、リーナは見つめた。 癖のある赤毛とそばかすだらけの日焼けした姉とは違い、ニーテは蜂蜜色の髪の毛に白い肌、柔らかいモスグリーンの瞳の持ち主だった。まばゆい春の光に溶けてしまいそうな線の細さ。 容姿から背丈まで強健な父親に似ている彼女は母の面影そのものをたたえた弟を羨望の目で見つめていた。視線を感じたのか、ニーテが顔をあげて不思議そうにこちらを見た。 「なに?」 「あ、ううん。……今日はお魚にしようか、どう思う?」 「お魚? それなら僕が川で釣ってきてあげる」 釣りが好きなニーテは目を輝かせて立ち上がった。リーナの口元が引きつり笑いに変わる。のんびり屋の弟に任せていたらいつ魚が届くか分からない。 「いいわ、あたしが行ってくるから。あんたは宿題終わらせておきなさい」 リーナはパンとバケツを手に、不服そうな弟を残してまた裏戸から威勢よく出ていった。 リーナは釣りが好きではない。じっとしているのが苦手な性分だ。働き者の父からでさえも「せかせかするな」と言われるくらい動き回る。そんな彼女におあつらえ向きの釣り場がある。 集落の外れに出ると、森までは細い小道が一本、草原の中に伸びている。白い野の花が両側に咲いていた。眩しい光を浴びて、白が余計に輝いている。小さい頃は両手一杯にこの花を摘んで母にプレゼントしたものだ。 リーナは空のバケツを前後に振りながら湖を目指し、町の西側に位置する森へと大股で下った。 夕暮れが近くなったのも手伝って森の中はひんやりとしており、木独特のすっきりする匂いがした。まっすぐないくつもの光の筋が木々の間から射し込んでいる。高い所から聞こえる鳥のさえずりが一帯に響いていた。
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