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リーナは湖に辿り着いた。対岸がようやく見えるくらいの大きな湖。水面はぴたりと動きを止めて、まるで鏡のように空を映している。
ひと月ほど前に湖のほとりで爆発があったとは思えないほど静かだ。縁に近い木が何本か焼け焦げて黒くなっている。今はもう何ともないけれど、ニーテや遊び仲間がこの辺りで探検するにはやはり危険な場所だ。
「ここの魚は食べられないわね」
わざわざ来たものの、水面にはまだ事故による油が浮いていた。村長の指示で土嚢で仕切られており、ある程度の期間処理のために人が入っていた。
腰に手を当てて溜め息をつく。餌がわりに水面に撒こうと思っていたパンをかじっていると、リーナの目の端に黒い人影が映った。
「!」
はっとして目を凝らすと、その人は森の中へと姿を消した。やはりここには噂通り怪しい男がいるのだ。リーナは真っ青になり、急いで森を抜ける坂道を走っていった。
「ただいま!」
息を切らして声を張り上げるも、自分の声がやけに響いただけで人の気配はない。
「帰ったわよー」
もう一度大きな声を出すも返事はない。リーナは唇を尖らせ、廊下の先のダイニングを覗いた。昔の名残で無駄に広く、薄暗いダイニングに、やはり弟の姿はなかった。
テーブルの上には開きっぱなしのノート。宿題はまだ終わってないようだった。
「遊びに行ったのかしら」
壁の大きな振り子時計の針は六時を回っていた。
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