2. 黒い男

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長年使い込んで縁の黒くなった石窯のオーブンを開け、中の深皿を引き出すと、チキンとハーブと胡椒の香りが鼻をくすぐった。思わず笑顔になる。結局魚は手に入らなかったが、美味しそうなものができたので良しとしよう。 匂いを嗅いだ後は、料理が冷めてしまわないように火を消したオーブンの中に戻してフタをする。 リーナはミトンを外して、キッチンの窓から外の様子を眺めた。外はもう暗くなってしまったのにニーテはまだ帰ってこない。 「遅いわねえ」 不満そうに呟きながらダイニングに出てきて、弟がいつも座っている椅子に腰を下ろしてみる。やけに時計の秒針の音が響いて聞こえた。 一分も経っていないのにリーナはそわそわした。物音がしないと落ち着かない。それに、ニーテがこんなに遅くなるなんてこれまでなかった。 胸がざわつき不安になって立ち上がった時、外から騒然とした子供たちの声。続けて入り口の扉が派手な音を立てて開けられた。 「リーナねえちゃん!」 真っ先に走ってきたのは背の高いテリー。村長の息子で、子供たちのリーダー的な存在だ。その後ろから息を切らし、興奮しているような子供の声と数人の足音が騒々しく近づいてくる。間もなく黒の外套を着た背の高い男が、顔を歪めたニーテを背負ってやってきた。 「ニーテ、どうしたの!?」 「森で遊んでたら崖から落ちちゃったんだ」 「何ですって!?」 ニーテは真っ青になって荒い呼吸をしていた。痛みに歪んだ顔。足には包帯がぐるぐると巻かれている。リーナは顔面蒼白になって胸元を押さえた。その時。
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