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「大丈夫だ」
低く、落ち着いた声。見上げると、男がこちらを見ていた。ぼさぼさに伸びた髪と汚い髭。長く伸びた前髪の間から黒い瞳が覗いている。怪しげな姿だったが、思いがけない優しい声にリーナは心が鎮まるのを感じた。
「もう医者には診せてきた。傷が大きくて縫ったから熱が出るだろうけど」
「あ……あ、ああ、そうなの」
リーナは彼とニーテを交互に見た。いつの間にか荒くなった呼吸を、俯いて落ち着ける。大丈夫、大丈夫と小声で自分に言い聞かせた。ようやく彼らから伝わってくる夜の冷気を感じてリーナは体をぶるっと震わせた。
「おじさん、すごかったんだぜ!」
「ニーテ、たくさん血が出てたけどすぐ助けてくれた」
大人の話がひと段落すると、途端に子供たちは騒ぎ始めた。興奮してどんな風にニーテを救ってくれたか我先に話しだす。ところが。
「うるさい!」
自分を取り囲んで盛り上がる子供たちを男は一喝した。お腹を抉られるかのように太く低く、大きな声。水を打ったかのように静まる。彼らは笑顔のまま凍りついてしまった。怒られたわけでもないのにリーナまで硬直してしまった。
「大きな声を出すな。この子の傷に障る。暗いからさっさと気をつけて帰れ」
今度は打って変わって静かな声でぼそぼそと話す。
「は……はい」
子供たちはヒーローだか何だか分からないが、とにかく友人を救ってくれた男の言葉に素直に従った。普段生意気なテリーでさえも、何も言わずそそくさと帰っていった。
バタン。
扉の音と共に子供たちがいなくなって静かになると、ニーテの荒い呼吸が急に大きく聞こえ、リーナはまた不安になった。
「部屋に連れていこう」
そう言った男に慌てて頷く。リーナは壁に掛けていたカンテラを手に先立って階段を上り、彼をニーテの部屋に案内した。
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