1. 空の運送屋

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1. 空の運送屋

風にはためく真っ白なシーツ。大きな手のひらがそれをぎゅっと掴んだ。 手の感触でしっかり乾いたのを確認すると、リーナは大きな茶色の瞳を輝かせて笑顔になる。木の枝に渡した紐からシーツを引っ張り下ろすと、腕の中は太陽の暖かさと匂いでいっぱいになった。 「気持ちいいーっ! 今日はよく眠れそう」 晴れを見込んでたくさん洗濯したのが大当たりだった。もうすぐ寒い冬も終わり、彼女の大好きな春がやってくる。 後ろで一つに結んだ、癖のある長い赤毛が風に揺れる。翼をいっぱいに広げた鷲が心地好さそうに大空を旋回していた。吊り上がった大きな瞳にその様子が映る。 リーナが空を仰いでいると、背中の方から駆けてくる足音が近づいてきた。 「ただいま、お姉ちゃん」 まだ声変わりしていない弾んだ声。九歳の弟が村の小さな学校から帰ってきた。息を切らして頬を紅潮させている。今日は取り分けいいことがあったようだ。 「聞いて! 昨日テリーが宝物を見つけたんだって!」 弟のニーテは興奮を抑えきれない様子で、彼にしては珍しく早口に言った。リーナは適当に相槌を打ちながら次から次に洗濯物を取り込み、ちょうど良いタイミングで帰ってきた弟に渡す。 洗濯物を細い腕で不器用に受け止り、シーツに埋もれながらもニーテは話を止めない。 「明日みんなで森に取りに行くんだ。きれいな青い宝石の付いたペンダントだって。ねえ、僕も行っていい?」 それを聞き、リーナは思わず手を止める。きりりとした眉の端が上がった。背の高い姉に鬼のような形相で睨まれ、少年は首をすくめた。 「森はだめよ! 近頃変な人がうろついてるって噂なんだから。絶対だめ」 最後の洗濯物を荒々しく紐から引き下ろすと、弟の腕の中から全てのシーツを取り上げて裏戸に向かう。その後をニーテは慌てて付いてきた。 「でもテリーはそんな人いなかったって。ねえ、ちょっとだけ」 「だーめ」 彼女は山のような洗濯物を持っているにも関わらず器用にノブを回すと、戸口で靴の裏の泥を擦り落として家の中に入っていった。 image=511671141.jpg
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