20人が本棚に入れています
本棚に追加
三年前のある日。
突然見たこともない大きな物体が轟音と共に空からやってきた。灰色の鉄の塊のような不気味なもの。鳥のように翼を張ってゆっくりと飛んでくる。
「なに、あれ……」
リーナも収穫したばかりのキュウリを握りしめたまま、呆然と空を見上げていた。
拳大の大きさの空軍の巡回機が上空を飛んでいるのはよく見かけていた。しかしそれまでロウデリーバレーには「飛行機」なんてものを間近に見た人はいなかったのだ。
多くの住民が互いに顔を見合わせ、上空を指差し、大変なことが起こっていると騒ぎ立てた。
彼女たちが見守る中、怪物の目のように見えていた二つのプロペラが上を向く。空中で止まったかと思った瞬間、それは町外れに真っ直ぐ降りてきた。
皆一様に警戒していたけれど、結局はそこへ集まっていく。
それが近づいてくるにつれ、熱風が吹きつけてくる。ぽつんぽつんと立っている木が折れてしまうのではないかと思うくらい大きくしなっていた。近くではとても立っていられない。ごうごうと風を吹かせる飛行機を中心に、緑の草原が放射線状に煽られていた。
ズシッと音を立て、機体からいつの間にか出てきていた車輪が地に着く。エンジンから噴出する熱と風が次第に収まり、草原はしんと静まりかえった。
ゴトン。
住人たちが注目する中、飛行機の側面に取り付けられた扉が重厚な音を立てて開いた。深緑色のジャンパーに白のズボン、重そうなブーツを履いた、体つきのしっかりした男性が姿を現わす。
起きたばかりかのようなくしゃくしゃの髪をした彼は胸を張り、群衆の様子を見回して大きな口でにっこりと笑った。それから一度奥に引っ込み、入り口に取り外し可能な階段を引っ掛けて、大きなカバンを手に降りてきた。
よそ者に対して警戒心の強い田舎の人たち。特にその時は女性ばかりで村長も高齢だったため、ごくんと息を呑んで一歩後ずさり、誰ともなしにひと塊りに集まり始める。その群衆を前に、彼はゴーグルを外して首にぶら下げた。
快晴の空をそのまま映したかのような、息を呑むほど澄んだ青い瞳。大きな目はキラキラと輝いていた。そんな彼は足を止め、ぺこりと頭を下げる。
「こんにちは! 初めまして!」
最初のコメントを投稿しよう!