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カフェテリア
大友健介とは、ビジネススクールのカフェテリアで出会った。
私はテキスタイル学科で、主に紡ぎや織りを学んでいた。
サンルームみたいなガラス張りのカフェテリアは
一般の人々にも開放されており、
明るい雰囲気とおいしいコーヒー目当てに人が集まり、
昼時はもちろん、開店から閉店間際まで、
カップを片手に談笑する人が絶えなかった。
「ここの学生さんですか?」
昼食時、毛糸見本を見ていた私に声をかけて来たのが
健介だった。
スマートな紺色のスーツ姿に、笑顔が爽やかだった。
ハンバーガーとサラダ、ポタージュの載った
トレイを持っている。
「…そうですが…」
「ご一緒させていただいていいでしょうか」
丁寧な物言いだけれど、もうトレイを置いて座ろうとしている。
「あ、僕、そこの向かいの会社で、営業やってます。」
着席すると爽やかな笑顔を崩さず名刺を差し出す。
名刺には一部上場企業の名前と「主任」という肩書、
「大友 健介」
という名前があった。
「いやあ、ずっとお友達とご一緒だったでしょ?
いつ声をかけたらいいのかなって。
何を学んでいらっしゃるんですか?」
次々話しかけてくる。
「テキスタイル学科で、主に紡ぎと織りを…」
「素敵だな。女性のセンスが活かされる分野ですね。
そうだ、ちょうど取引先主催で、
テキスタイルデザインの作家さんが展覧会やるんですよ。
チケットを捌かなきゃならなくて。いかがですか?」
まるで用意してでもいたかのように
健介は胸ポケットからチケットを2枚取り出す。
行きたいと思っていた作家だった。
チケットを捌きたいなら
学科のクラスメイトと一緒に居る時に声をかけた方がいいのに、
とその時は思った。
「よろしいんですか。1枚おいくら…」
「あ、これ整理券ですから。
来てくださるだけでありがたいです。
待ち合わせどこにしますか?」
友人と行くつもりで2枚貰おうと思ったと言う間もなく、
私は健介と展覧会に行くことになってしまった。
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