反対

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反対

私は健介と付き合うようになった。 健介は、次の人事異動でこの土地を離れることになるだろうと言った。 ちょうど私の学科終了時期と重なるからついてきて欲しい、とも。 私の通う専門学校には専攻科がある。 私はそこへ進学し、 卒業後は懇意にしている工房に入る事が決まっていた。 私は、健介ひとりの方が大きな存在で、 紡ぎや織りを手放すのは当然な事だと思った。 そうすることが、私が健介を愛している証だと思った。 私はついて行くと返事して、健介を家に連れて行った。 古民家風の木造の家を見て、健介は驚いたようだった。 ガラスの嵌った引き戸を開けると薄暗い玄関。 壁も、下駄箱も、上がり元も、磨かれ艶を帯びた古い木材。 下駄箱の上にタデアイが活けてあり、 花瓶敷きはもちろん母の藍染だった。 「いらっしゃいませ」 三つ指をついた母が頭を上げる。 私が結婚したいという男性を連れて来たと言うのに、 母が健介を見つめる目は険しかった。 挑むような、探るような、厳しい視線を向ける。 母親とは娘の恋人を値踏みする時、こんな目をするものなのだろうか。 それでも母は手料理を何品か用意して待っていてくれた。 座布団には母の染めた座布団カバーがかけられ、 テーブルにはやはり母の染めたランチョンマット。 台所と茶の間を仕切るのれん。 様々な青が食卓を彩るように配置されていた。 広い茶の間に時々ちらつく蛍光灯の下、 母の手料理を食べながら、最後まで雰囲気がほぐれることはなかった。 結婚して赴任地へ連れて行きたいと健介が言うと、 「二人で決めることですから」 と、母はぼそりと呟いた。 「またお邪魔します」 私の実家を辞した健介は、とても疲れていた。 「俺、気に入られてないな」 静かに、とても冷静に健介が言う。 「私と母さん、親一人子一人だから」 「そういう事じゃなくて、なんだか敵意みたいなの感じた」 「そんな。母はずっと一人で私を育てて来たから、 ちょっと性格きついだけだと思う」 「そうかな。」 健介は私と目も合わせずに車に乗った。
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