反対

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「お母さん」 玄関の戸を後ろ手に締めながら母を呼ぶ。 出てこない。 茶の間に入ると 母は健介をもてなしたテーブルを片付け終わり、拭いている所だった。 「なんであんな態度とるの? 健介、嫌われてるんじゃないかって気にしてたわ」 見下ろす私を母はぐい、と見上げる。きっとなった表情に圧倒される。 「……なにが?」 「なにがって…」 母は下を向き、ことさら力を入れてテーブルを磨き上げる。 「ちょっと!」 私も座り込み、 ふきんを握る母の手を、こちらも母の手の力に負けないように 思い切り握る。 母が顔を上げる。 目が合う。 やっぱりだ。母はわざとああいう態度をとったのだ。 初対面の娘の恋人に、まるで憎むような眼を向けたのだ。 にらみ合う。 「なんで健介にあんな、まるで憎んでいるみたいな態度をとったのか 聞いてるの」 「あんたから大事なものを奪おうとしてるから」 私の手を跳ねのけるようにして、母はふきんを持った手を大きく動かす。 「何言ってんの?専攻科に進学するのをやめたのが そんなに気にいらないの?」 母が立ち上がる。 「名刺もらったでしょ? 健介、有名一流企業の営業マンなのよ。 私あの人を支えて行きたいの。」 暗い台所と茶の間の間に立って母が振り向く。 片頬に影を帯びた母の顔はさっきとは打って変わって悲しそうだ。 「そうだね。健介さんは大企業の優秀な社員ね。立派だよ。 で、あんたは何なの?」 「何なのって…」 立ち尽くす私に背を向けると、 母は台所のさらに薄暗い蛍光灯を点け、ふきんを洗い始めた。
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