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健介の実家
「それじゃ望美さんは、
健介について行ってくれるのね」
健介のお母さまは嬉しそうだ。
「はい。そのつもりです」
「健介。よかったわねえ。こんな健気なお嫁さんみつかって。」
このふくよかな女性は
丸いお顔の中のおちょぼぐちに笑みを絶やさず、
細い目を尚更細めて健介を見る。
「うん。」
「望美さん、うちの畑で採れたお野菜、いかがかしら。」
健介の姉の麻那美さんが言う。
トマト、レタス、さやいんげんのサラダ、茄子にひき肉を挟んで焼いたもの。
その他にも手料理が所狭しと並ぶ。
「大変おいしいです。」
「あら。」
健介の母の、太くて、短かめの指が嬉しそうに口許を覆う。
結婚指輪が指を締め付けるように嵌っている。
「でも、申し訳ない気がするなあ。
池端佐江子の娘さんの学問を途中でやめさせるような事をして」
健介の父が、言葉とは裏腹に嬉しそうに言ってビールを飲み干す。
「いいんだよ。どうせお遊びみたいなもんさ、な」
「え…」
酒に顔を赤くした健介は言葉を継いだ。
「望美はお母さんとは違うんだよ。」
この人は
自分の婚約者となる人を貶めていると気づいているんだろうか。
違う。確かに違うけれど、私は母の子だ。
私は真剣に学んだし、その真剣に学んだ大事な事を、
あなたのために手放そうとしているのだ。
それなのに。
「ねえ望美さん、あなたほんとにお父様、知らないの?」
追い打ちをかけるように、健介の姉が聞く。
「これ、真那美。はは、失礼しましたねえ」
と紛らわすように健介の父。
「そういえば昭信さん、教授になったんですって。」
私の顔色に気づいたのか、健介の母親が話題を変える。
真那美さんの夫が、大学教授になったらしい。
「すごいな」
と健介。
「昭信君、やったなあ」
健介の父。
「お母さん、お隣さんにちょっと自慢しちゃった」
と健介の母。
健介の姉が美しい顔をほころばす。
誰も健介の姉に
「で、あなたは何なの?」
とは聞かない。
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