健介の実家

2/2
前へ
/10ページ
次へ
食事が終わり、 片づけを手伝う。 洗った食器を拭いて、戸棚にしまう。 ブランド物の食器が程よいすき間を開けて並ぶ。 「ああ、それはこっち。覚えてね」 健介の姉が少し剣のある口調で言う。 「申し訳ありません」 「それとね、このお箸、今日健介と望美さんが使ったお箸が お客様用。母はこのえんじ色、父はこっちの赤茶で重たいの。 私のはこの、濃いめの赤ね。」 「はい…」 どれも似たような箸で見分けがつかない。 これに、この人の夫、この人の子供のものまで加わるのだろうか。 似たような塗り箸、ブランド物だからセンスのよい食器はあるけれど、 この家には、自分で選んだ色がない。 ぜんぶ違う青に染まった木綿の座布団カバー、麻ののれん、タペストリー。 古くても磨き抜かれた柱や床、濡れ縁を彩る色は、 確かにこの新しい家には似合わないけれど、 でも似合う色はきっとあるはずだし、 似合う風合いの糸、布もあるはずだ。 きっとこの家の人々は、そんな色を探すことも無いのだろう。 片づけが終わった。 リビングでは健介と健介の父がニュース番組を観ている。 ソファに座った健介の姉が言った。 「やることなくなっちゃった」 急に、その場に居るのが耐えがたくなった。 トイレに立つ。 洗面台の鏡に映った自分の顔を見て驚く。 なんてぼんやりした顔。 気分が悪くなってきた。 私は大友家を辞した。 送ると言う健介を頑なに断り、駅まで冷たい風に吹かれて 歩いた。 無人駅のホームに立って頭を冷やした。 私にとって、「やること」は家事以外に常にあった。 ぜんぜん違う- 望美、じゃあ、あなたは何なの? 私は自分で自分に、母の問を突き付けた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加