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波切が一際大きく叫ぶと、波切の右手が一気に黒く染まった。
紫穂「...!?」
よく見ると、波切の右手は黒くなったのではなく文字で埋めつくされていた。
その右手で印を結ぶと、ぶわぁっと風が巻き起こった。
離れて見ている紫穂ですら吹き飛ばされそうな勢いだ。
その風の中心に、獣が見えた。
3m程もある大きな、月のような色をした獣。
煌めく銀とクリーム色を混ぜたような色の毛皮と、長い尾と耳。
兎と鼬を掛け合わせたようなその美しい獣は、宙を舞い黒いものを喰った。
がぶり。
獣に黒い塊が飲み込まれるのが見える。
...とても美しいが、どこか恐ろしかった。
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波切「...サン、高山サン。終わったよ」
紫穂「はっ...?」
気付くと家の前に立っていた。
紫穂「あれ、私、あれ」
波切「......お姉さん、もう苦しまなくていいんだよ。終わったの」
波切が優しく、そう言う。
紫穂「......お姉ちゃん...」
そうか。終わったんだ。
あの化物は、あの獣は、あの光は
本物だったんだ。
幻なんかじゃない。喰い殺された姉も、あの化物も、全て。
私の見たものだ。感じたものだ。
あの化物はもういない。“あそこには”。
でも確かに存在していた。……何かが。
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