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結局、朝まで家で様子をみて、次の日の朝、俺が付き添って病院に行くと、絵里が言う通り、動いた事で一時的にお腹が張っただけでしょうとのことだった。 念のために、張り止めの薬を出しておきましょうと薬をもらい、次に同じような事があれば屯用で飲むようにと説明を受けた。 「ねぇ、大丈夫だったでしょう」と俺に言ってくる絵里に先生は、「看護師さんは、無理しすぎる人が多いから、気をつけてくださいね」と口調は優しいながらも釘を刺していた。 『安定期に入ったから、そろそろ運動しないとダメよ。年齢もあるし、お産は体力勝負だから、ちゃんと準備しないとね。つわりも終わって、これからは体重が増えてくるから、気をつけてね』 前に妊婦健診に来た時に、絵里がベテランの助産師さんにかけられていた言葉。 絵里はその人のことを、知識も経験も豊富で、人柄もよくてと、かなり信用していた。 妊娠の事も、出産の事も、何も俺はわからないけれど、何となくその言葉が頭に残っていた。 その前の日は、たまたま早く仕事から帰れたからと、帰宅してから近所に散歩に出かけた絵里は、帰り道、坂道を登り切った辺りから、急にお腹が張り出して、どうにか家までは辿り着いたが、そのまま食事もせずに、俺が帰るまで、こたつに横たわっていた。 絵里ははっきりは言わないけれど、布団に移ることも、水分を取りに行く事もできないくらい、余裕がなかったんじゃないかと思った。 じゃなければ、日頃からこたつで寝ちゃダメだよと俺に言っている絵里が、長い時間、水分も摂らずにこたつで寝てるなんて考えられなかった。 その時に絵里が行っていたのが河川敷で、距離はそんなに遠くないものの、大きな坂を二つほど越えなければならないため、それが負担になったんだろうと思った。 どうにか家まで辿り着けたから良かったものの、夜になればそんなに人が通るところでもないので、もし道に倒れでもしていたらどうなってたかと思うと、胸が苦しくなった。
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