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「ただいま」 自宅の玄関の引き戸を開けてそう言うと、「おかえりなさい」と、弾んだ声が返ってくる。 茶の間に入ると、台所から顔を出し「おかえり」と、もう一度言う絵里の顔が予想以上に嬉しそうで、思いがけず俺の胸もキュンも反応し、驚く。 「すぐご飯でいい?早い?」と聞かれて、「ううん。お腹減った」と告げると、「うん!」とさらに嬉しそうな顔で頷く絵里に、結婚して2年が経とうとしているのに、やっぱり好きだなと思ってしまう。 「着替えてくるね」と言うと、「はーい」と返事をして、台所へと踵を返す絵里の後ろ姿を見送る。 全体的に丸みを帯びた後ろ姿を見て、幸せをじんわりと感じていた。 臨月に入ったばかりの絵里は、先月末からやっと産前休暇に入る事が出来た。いままで、必死に働いてきたんだから、少しくらいゆっくりして欲しいと思うけれど、性分なのか、それともこれまでが忙しなく働いていただけにじっと出来ないのか、家の中でもいつも動き回ってた。 パタパタと後ろからスリッパの音がして振り向けば、「はい、これ」と畳んだ服が渡される。「少し、ゆっくりしたら」と声をかけると、「動いていた方が安産にはいいのよ」と、諭すように絵里に言われてしまう。そうだねと返事をして、寝室に向かえば、背中にまた聞こえて来た足音が遠ざかっていった。手にしたシャツは、ほのかに温かくて、顔を近づけるとお日様のいい匂いがした。 寝室に入ると、テーブルの上には、綺麗に畳まれた産着が重ねられていて、それを見て自然と顔が緩んだ。 いよいよだなと、まだ見ぬ我が子を思って、もう一度笑みを零した。     
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