第二章

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 少女が目を覚ますと、そこは見たことのない部屋の中だった。  弾性を失ったベッドに寝かされていた体はあちこちを包帯で包まれ、身に纏っている物は 汚れた布ではなく、使い古されてはいたが洗濯されたシャツだった。  生きている。少女は自分の手のひらをゆっくりと天井に掲げ、大きく呼吸しながら眺め続ける。  そこへ部屋の扉が開かれた。  立て付けが悪いのか、金属を擦るような音をさせながら、小さな女の子が部屋に入ってくる。年齢はベッドに横たわっている少女と同じくらいだろうか、水色の髪をした女の子は目覚めた少女と目が合うと、大急ぎで部屋を飛び出し、誰かの名前を叫び始めた。  少女は天井に向けていた腕を降ろすと、下を向くように扉の方向を見続ける。開けっぱなしの扉からは、女の子が何かを引っ張っている様子が見えた。  部屋の前に連れてこられたのは若い青年だった。短い黒髪に洗いすぎて色落ちした服に破れかけているズボン。一見どこにでもいるような街の男である。 「マリン、分かったから。そんなに強く引っ張らないで」  青年は困った顔をしながら、柔らかく声をかける。  そして少女は青年と目が合った。 「お、目が覚めたのか」  青年は少女の額に手を置くと満足したように頷き、マリンと呼んだ女の子に水を新しく入れ替えてくるように声をかける。マリンは少女が寝ているベッドの横の椅子に置いてあった桶を危なげに持つと、水を零さないようにゆっくりと部屋を出ていった。  女の子が扉から見えなくなるまでを見届けてから、青年は先程まで桶があった椅子に腰かける。
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