第八章

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「こいつ、足元にっ!」  目の前のドレス姿の女性を切り飛ばした後、戦士の男の足に上半身だけの男の子が右足に噛みついていた。魔法障壁によって歯は足に食い込んではいないが、放置することはできない。 「動くな!」  隣で戦っていた盗賊の冒険者が持っていたナイフで男の首を掻き切る。だがそれでも男の子の口は離れず、盗賊が覚悟を決めて頭を踏み潰すことでようやく解放された。 「何て奴らだ!」「後ろ!」  心を痛める盗賊の頭上を、複数の矢が通り過ぎて不死者の両目を潰す。視界を奪われた不死者は方向を失い、他の不死者の動きを邪魔し始める。 「あと3分だ!」  両手剣を持った戦士が不死者を一刀両断しながら叫ぶ。フォースィの周囲には視覚化できるほどにクレーテルの粒子が浮き始め、赤い神官服の中へと入っていく。  たった1分。その間に十数体の不死者の山が出来上がっている。一体どこを攻撃すれば倒れるのか分からず、とにかく切り続け、刺し続け、射抜き続けるしかない。肉体強化の魔法がかけられ、通常以上の能力を発揮しつつも、精神的な負担は計り知れなかった。 「凄い凄い。あんな場所で2分ももっているよ」  相変わらず噴水の前で立ったままのビフロンスは、広場の中心で身動きの取れなくなったフォースィ達の動きを観察し、指をさしながら楽しんでいる。既にバルデック達は東の大通りを抜けていったが、それにも関心がなさそうだった。 「違うわね。ここを離れられないんだわ」  空気を混ぜるように魔導杖を少しずつ動かし、フォースィは常に周囲のクレーテルを調節しながらも警戒を忘れない。  魔王軍の77柱。名前は初めて聞くが、恐らく幹部や隊長級の者達をそう呼ぶのだろうということは想像できた。その2人が集まって発動させた技、その能力を考えると彼らの力が影響する範囲は限られているに違いない。フォースィはそう直感する。  ならば、勝機はある。フォースィは残り1分と心の中で言葉を紡ぎ、発動させる魔法に集中する。
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