第八章

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「………本当に生き残ったな」  冒険者の一人が信じられないと目を大きくさせる。 「いいえ、まだ終わっていないわ」  フォースィは何事もなかったように歩き始める。体が若返ったせいで紅の神官服にやや余裕ができているが、動くだけなら支障はない。感覚では最初の加護魔法で1歳から2歳、さらに先程の大魔法で4歳程度若返っていると、フォースィは予想する。 「あの悪魔の話通りなら、本隊がこれから到着するはず。それに西や北からも蛮族が中央に向かってくるはずよ」  フォースィが小さく息を吐くと、光の結界が消える。 「じゃぁ、早く街を出ないとな」  悪魔に止めを刺した戦士が剣を鞘にしまい、他の冒険者達の表情を見る。他の冒険者達も同じ意見だと頷き、どこの方角から逃げるべきかと、フォースィの答えを待っていた。  だがフォースィは革鞄から硬貨の詰まった麻袋を取り出し、冒険者に見えるように手のひらに乗せる。 「あなた達に依頼があるわ」 「おいおい、依頼なんかなくても一緒に逃げるさ!」  今更何をと、盗賊の男が金はもらえないと両手を小さく広げて首を振った。  フォースィはそうではないと呟き、冒険者達の顔を一瞥する。 「南門に行き、あの子を………イリーナを連れて逃げて欲しいのよ」  いかに聖教騎士団の名をもつ彼女でも、南門の全ての敵を倒す事は叶わない。だがフォースィが指示した以上、イリーナは限界まで戦い続ける可能性がある。今ここで彼女を失いたくはないとフォースィは話した。  ただでさえ生きていることが奇跡な状況。それでもなお南へと向かって欲しいという依頼に、冒険者達の口が動かなくなる。 「………分かったよ。他でもないあんたの頼みだ、その依頼受けてやるぜ」  戦士の1人がフォースィの手のひらから麻袋を摘まみ上げる。そして中を確認すると思わずフォースィの顔を見つめた。
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