59人が本棚に入れています
本棚に追加
「………本当に生き残ったな」
冒険者の一人が信じられないと目を大きくさせる。
「いいえ、まだ終わっていないわ」
フォースィは何事もなかったように歩き始める。体が若返ったせいで紅の神官服にやや余裕ができているが、動くだけなら支障はない。感覚では最初の加護魔法で1歳から2歳、さらに先程の大魔法で4歳程度若返っていると、フォースィは予想する。
「あの悪魔の話通りなら、本隊がこれから到着するはず。それに西や北からも蛮族が中央に向かってくるはずよ」
フォースィが小さく息を吐くと、光の結界が消える。
「じゃぁ、早く街を出ないとな」
悪魔に止めを刺した戦士が剣を鞘にしまい、他の冒険者達の表情を見る。他の冒険者達も同じ意見だと頷き、どこの方角から逃げるべきかと、フォースィの答えを待っていた。
だがフォースィは革鞄から硬貨の詰まった麻袋を取り出し、冒険者に見えるように手のひらに乗せる。
「あなた達に依頼があるわ」
「おいおい、依頼なんかなくても一緒に逃げるさ!」
今更何をと、盗賊の男が金はもらえないと両手を小さく広げて首を振った。
フォースィはそうではないと呟き、冒険者達の顔を一瞥する。
「南門に行き、あの子を………イリーナを連れて逃げて欲しいのよ」
いかに聖教騎士団の名をもつ彼女でも、南門の全ての敵を倒す事は叶わない。だがフォースィが指示した以上、イリーナは限界まで戦い続ける可能性がある。今ここで彼女を失いたくはないとフォースィは話した。
ただでさえ生きていることが奇跡な状況。それでもなお南へと向かって欲しいという依頼に、冒険者達の口が動かなくなる。
「………分かったよ。他でもないあんたの頼みだ、その依頼受けてやるぜ」
戦士の1人がフォースィの手のひらから麻袋を摘まみ上げる。そして中を確認すると思わずフォースィの顔を見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!