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第九章
ゲンテの街の北東にある森。
十年以上昔は魔物の出る洞窟として多くの駈け出しや中堅の冒険者達が日銭を稼ぐために出入りした洞窟がある。
今となっては魔物の数も減り、洞窟の奥へ入らない限り魔物に襲われることもなく、街への被害も無くなったためにギルドへの依頼がなくなり、ついには誰も近づかなくなった。
冒険者が通るために作られた森の道は長い年月で茂みに隠され、洞窟入口の前にある立て札は傾き、今にも落ちそうに朽ちている。
「昔と変わっていなければいいんだけれど」
手元には革鞄に入っているだけの携帯食料と数回分の水しかない。
東門を目指したフォースィは途中で倒れていた数人の騎士達を治療し、急ぎ西門へと向かうように声をかけていった。自分もまた街を脱出しなければならず、騎士団詰所の中に置いてあった僅かな水と食料のみを手に取る時間しかなかった。
フォースィは魔導杖に明かりを灯す魔法をかけると、ゆっくりと目を慣らすように洞窟へと足を踏み入れる。
年月は経っているが、明かりの届く部分に苔が生えている程度の変化しかなく、やや下るように奥に入っていくとそこは昔と同じ空間が広がっていた。天井は高く、明かりはほとんど届かない。壁伝いに歩いて行かないと方向を失う程に広い。
フォースィは左手を壁に這わせながら、壁を削ってつけられた矢印を探りながら前へと進んでいく。
まだタイサやデルが冒険者だった頃、フォースィは王国の密命を帯びて冒険者に扮した騎士達と共にこの洞窟に向かった。
しかし洞窟の奥でトロールに襲われて部隊は全滅。唯一生き残ったフォースィはタイサ達に助けられ、目的地である集落へと落ち延びることができた。
そして集落でタイサ達は今の王女殿下と出会い、騎士への道を進んでいく。
「始まりの地とはよくいったものね」
久々の1人旅に、フォースィの独り言が続く。確かに彼らにとっては騎士への道となる始まりであり、フォースィにとってはタイサと再び関係が作れた始まりであった。
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