59人が本棚に入れています
本棚に追加
既に歩き続ける事5時間弱。ついにフォースィは洞窟の行き止まりに辿り着く。
そして青みの強い岩壁を撫でるように手を動かし、岩壁の隙間に埋め込まれた何気ない石を見つけるとそれを強く押し込んだ。
岩壁は微かに振動し始め、ゆっくりと引き戸のようにずれていく。
「まだ使えたようね」
一安心とフォースィは息を吐き、青白い光を出す岩壁に囲まれた通路へと足を入れる。そして右側の僅かに出張った石を押し込むと、再び岩壁が動き始めて来た道を塞いだ。
岩壁が放つ青白い光のお陰で、松明やランプの類は必要ない。フォースィは魔導杖の明かりを消すと通路を進み、左手に見えた脇道の前で止まる。
正面に進めば目的の本を収める書庫へと続いているのだが、フォースィは先に集落の責任者に説明しようと、脇道の傍にある石を押し込み、天井から木製の階段を降ろす。
階段を上ると暗い倉庫の中に出た。十年以上前と変わらぬ造りにフォースィは懐かしみを感じつつも、倉庫の扉を開ける。
扉を開けた先は集落の広場に繋がっていた。
時間は既に夜だが、空は樹齢千年以上を越える木々によって生い茂った葉で隠され、夜と同じ暗さだが星1つ見ることができない。大木に囲まれた空間に作られた集落、始まりの地と呼ばれる場所はそこにあった。
フォースィは偶然広場にいた男と目が合う。男は倉庫から出てきた見知らぬ女性にかなり警戒していたが、フォースィは胸の前で指を左右の方に触れて祈ると、自分から名前を名乗った。
「驚かせて申し訳ありません。私はフォースィ。ギルドの依頼で王家の本をここに納めるよう依頼を受けています」
その言葉に、男は別の意味で驚く。
「王家の本!? で、では陛下の身に何かあられたのかっ!?」
この集落では代々、王国の歴史を記した本を保管する場所でもあった。本は国王の代ごとに巻数が割り当てられており、巻が変わることは即ち国王の崩御を意味する。男が驚くのは当然のことだった。
フォースィは言葉が足らなかったと男に謝り、改めて持ってきた本が過去のものだと説明する。この世には存在していないことになっているため『12』という数字は口に出していない。
「………分かりました。それでは村長の下へとご案内します」
事情を飲み込めた男は、小さく頭を下げるとフォースィを客人として扱い、村長の家へと案内しはじめた。
最初のコメントを投稿しよう!