第九章

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 集落の入口の通りと広場の入口と交わる2階建ての木造の建物。昔、フォースィが休ませてもらった場所と変わらず、ただ木造の表面だけが色あせて10年の時を静かに感じさせている。  男は扉を小さく叩くと、白く長いスカートを揺らしながら黒い長髪の女性が扉を開けて出てきた。女性は扉を叩いた男から事情を聞くと表情を変えて頷き、後は引き継ぐと男を帰らせる。 「フォースィさんでよろしいかしら?」  家の扉から出た黒髪の女性は改めて名前を確認した。  フォースィは小さく頭を下げる。 「急な訪問、申し訳ありません。本日は『とある方』からの依頼で名前のない本を1冊お届けに参りました」  村長の家に住む者なら、この表現で何の話かを察することができる。フォースィは10年前と同じ言葉を使った。 「なるほど、その言葉を知っているのならば本当に本を持ってきたのでしょう」  女性の表情が柔らかくなる。何かを懐かしむように女性はフォースィの顔を見る。 「あら、思い出せませんか? フォースィ様とは10年前に会っていますよ?」  フォースィは視線をずらし、急いで記憶を遡る。そして10年前の村長の家にいた黒髪の女の子を思い出した。 「まさら………プラウ?」それしか名前が思い出せず、フォースィは小さく呟く。 「ええ。久しぶりね」  プラウは紅い神官服を包み込むようにフォースィを抱きしめた。 「そんな軽装でここまで来るなんて………また無茶をしているの?」  服の色からでは分かりづらいが、紅の神官服は血と泥、汗で汚れており、匂いもそれなりについている。それでもプラウは気にすることなくフォースィを包み、友人の帰還を祝福した。 「あなたも元気そうで何よりだわ」  フォースィはゆっくりと、相手が気を悪くしないようにプラウの肩を押して体を離す。 「とりあえず色々と説明することがあるわ。とりあえず中に入ってもいいかしら?」  不眠不休で動き続けてきたフォースィは疲れた表情を奥にしまい、プラウに笑みを見せた。彼女は興奮が冷めないまま『もちろん』と答え、フォースィの背中を押しながら家の中へと案内する。
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