第九章

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――――――  フォースィが目を覚ますと木目の天井がまず視界に入った。背中は柔らかいベッドの感触、毛布は掛けられているが服は脱がされ、下着だけになっている。  そのまま顔を左に向けると、紅の神官服が壁にかけられていた。近くで見ている訳ではないが、綺麗に汚れが落とされているように感じる。 「………夢」  毛布から右手を出し、手の甲を目の上に置く。  よく見ればこの部屋には見覚えがあった。ここは10年前に王女殿下が泊まっていた部屋で、フォースィが王女と話をした部屋でもあった。  あの時、王女殿下はデルとタイサに正体を明かし、王国騎士団への推薦を約束した。そして王女の目論見通り、2人は騎士団長として活躍している。名前だけの貴族達に染まらず、彼らは立派に成長したのである。王女殿下がどこまで予想して決断したのかは分からないが、その慧眼は今考えても驚かされる。  フォースィは自分が眠る前のことを思い出す。 「プラウに誘われて家に入って………そこで事情を説明しながら、飲み物を貰って………」  そこから先が思い出せない。フォースィが受け取った飲み物はヤギのミルクに、薬草を細かく切って入れて温めたものだった。プラウが疲れがとれると言っていたことを思い出し、それを飲み終えたと同時に自然と目が閉じたことをようやく思い出す。  どうやら本当に疲れていたらしい。思い返せば当たり前の1日だったが、森の中に包まれた集落では、日が変わったのか、あれから何時間経ったのかは分からない。  フォースィは起き上がると体の筋を伸ばす。疲れは大分取れ、魔力も僅かだが溜まっている。基本の姿としている20代半ばに至るまではもう何日か待つ必要はあるが、旅をする分には困らない状態にはなっていた。 「………外が騒がしいわね」  壁に背中を預け、窓越しに外を覗く。  広場では黒銀の鎧を身に付けた騎士達が怪我人を次々と並べ、怪我の度合いに応じて部屋を分けて家々に運び入れている。集落の医者や神官の者が指示を出し、その場で治療を行っている姿も見られた。
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