第九章

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「そう言えば礼を言っておかないとな」  休もうとしていたデルを部屋から出したフォースィは、後ろをついて歩くデルから言葉をかけられた。 「ゲンテの街では、部下達が世話になった」と彼は続ける。 「気にしないで良いわ。私も彼らが置いていった物資を分けてもらったのだから」  フォースィの声も素っ気のないものであった。そして、そのまま振り返ることなく地下の洞窟に繋がる倉庫前までデルを案内し、その扉を開ける。  デルはさらにイリーナのことまで尋ねてきたが、フォースィは離れ離れになったと言いつつも、問題ないと強気で返す。 「で、どこまで行く気だ?」  地下の洞窟に繋がる倉庫の中に入っても、デルは何も気づかなかった。 「………デル。あなた、ここの場所に見覚えはない?」  フォースィは倉庫の壁に掛けてあった魔導ランプに火を灯し、倉庫の中を明るくするが、それでも彼の反応はずいぶんと鈍い。  どうやら記憶を操作した効果は未だに続いているようだ。機密上、フォースィはデルとタイサに洞窟からこの集落まで辿り着いた記憶を封じてあった。  だが記憶の操作も、当時の記憶に繋がる事実を強く与えることで解くことができる。  魔王軍と名乗る蛮族達。しかしながら、彼らの言う魔王軍は決してお伽噺の存在ではなく、過去にも存在していた。そしてこれらのことをデル達に伝えなければ、今後の戦いにおいて彼らは常に不利になり続ける。  それではまずい。  そう判断したフォースィは、デルにもこの集落の意味を伝える頃合いだと判断した。  フォースィは倉庫の中にある仕掛けを使うと下へと続く階段が現れ、デルを中へと案内する。そして階段を降りると青白い岩壁の通路を進み、ついに洞窟の広い空間へと出た。 「もしかして、俺とタイサが探索していた洞窟か?」  ようやくデルが思い出す。フォースィは自分が助けられた経緯を話し、さらに記憶の扉を開いていく。そしてデルを書庫の前まで連れてくる頃にはデルは記憶を取り戻し、ついには本題の1つである魔王軍の話を振ることができた。
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