第九章

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「あなた………魔王軍と名乗る蛮族達と戦った?」  バルデックから聞いた話を、フォースィはさも知らなかった素振りでデルに尋ねる。デルは大層驚いていたが、それでも相手の話を先に聞こうと、口を閉じたままフォースィの言葉を待っていた。 「私はもっと前から魔王軍のことを知っていたわ」  フォースィは書庫の前、木製の扉をゆっくりと開く。  扉の先には広い岩壁の空間の部屋、そして部屋の奥ににはカビ止めや防水加工をほどこされた古い本棚が1つだけ置かれていた。その本棚には厚さの異なる、しかし装丁は統一された本が上から2段目まで敷き詰められていた。 「ここには王国の知る歴史が全て記されているわ」  デルは本棚の前で思わず前のめりになり、指で背表紙の巻数を数え、本を手に取る。そして興奮も冷めないまま適当に本を手に取って読んでいくと、デルの指があるところで止まった。 「おい、12巻がないぞ」  別の場所に紛れているのかと、デルは最後の17巻までの背表紙に指を横に這わせながらもう一度確認したが、やはり12巻だけが見つからなかった。 「12巻は………ここにはないわ」  当然気付くと思っていたと、フォースィは素直に答えた。  依頼で納めるべき本は、フォースィが肩からかけている革鞄の中に入ったままである。魔王軍の存在について信じてもらうために効果的な方法とはいえ、本来はこの部屋の存在を教える事だけでも大変大きなことであった。 「12巻はね、その殆どが失われているの。あの時代に何が起きたのか、誰がカデリア王 国との戦争を終わらせたのか、誰も知らない」  全てを伝えるにはまだ早いと、フォースィは自分が今まで調べてきた内容を伏せて説明する。 「フォースィ………お前は一体」  デルがその先の一言を発しようとした時、階段の上から長い笛の音がこの部屋まで届いてきた。 「………何、この音は?」「まさかっ!?」  フォースィが音に耳を澄ませようとすると、デルは真っ先に部屋を飛び出していった。
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