第九章

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 デル達が倉庫の扉を開けて外へ飛び出ると、そこは既に戦場と化していた。騎士達は装備の準備に関わらず、鉄の鎧を纏った重装オーク達と剣を交わしている。  デルは広場で会ったバルデックから報告を受けると、彼から剣を受け取った。  オークの装備からして、ゲンテの街を襲った魔王軍と同じ者達だろう。フォースィはそのことに気付きながら、さらに何故この場所が見つかったのか疑問をもつ。だが今は何としても魔王軍を撃退しなければならないと割り切り、表情が自然と険しくなった。 「………私も行くわ」  フォースィは肩にかかる黒髪を後ろへと払い、1人で行こうとするデルに声をかける。 「いいのか? ちなみに報酬は出ないぞ?」振り返るデルが自嘲気味に笑ってみせた。 「構わないわ。貸しにしておくから」  フォースィはデルにそう言ってわざとらしく笑い返し、共に苦戦している集落の入口へと向かった。  デルは先に行くと言い残し、あっという間にフォースィと差をつけて走り抜けて行く。そしてようやくフォースィが入口の様子が見えたところで、デル達は重装オークと戦い、さらに猫のような姿をしたメイド姿の亜人と剣を交わしていた。  メイド姿の猫の亜人は、デルから離れると重装オーク達を横一列に並ばせる。 「デル、こちらも陣形を!」  デルが前衛に出ている以上、こちらは支援に徹する。騎士達のもとに追いついたフォースィは即座に判断し、デルに声をかけた。  周囲の騎士達はいきなり現れた紅い神官服の姿と声に戸惑ったが、彼がフォースィのことを説明したことで落ち着きを取り戻す。 「フォースィ。魔法は何回使える?」 「………それはどこまでの意味で言っているのかしら?」  フォースィは意味ありげに笑ってみせる。正直なことを言えば、ゲンテの街で大分魔力を消費しており、これ以上の若返りは止めておきたかった。  それでもフォースィはデルに5回という回数をデルに告げ、竜の彫刻の魔導杖を空高く掲げて淡い緑の光を騎士達に降らせた。 「………残り2回よ」  集団への同時加護魔法と回復魔法との併用は心臓と呼吸への負担が大きい。フォースィは片目を細くし、呼吸が荒れたまま魔導杖をゆっくりと降ろす。 「団長、これは………」  騎士達は体からみなぎってくる力に興奮している。だが同様に加護がかかっているデルは感情を抑えつつ部下の前に立ち、剣を前に突き立てた。
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