第一章

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 女性は古書のページを数枚ほど遡る。そこには魔女の森と魔法封じの腕輪のことが走り書きで記されていた。 「魔王の力に目覚めた古城、双子竜を復活させた黒い石碑………。とりあえず、この辺りで見ることができる記録は次が最後のようね」  女性は古書を閉じると丁寧に革鞄の中に戻す。そして再び周囲を見渡すと自然の中で目的の異物を見つけた。  それは木と木を結ぶ赤く太い線、いや紐と呼んでいいのか分からないものであった。その薄さたるや貴族や王族が使う絹のように薄く、やや透明感がある。 「でも手触りは別物ね。むしろ紙に近い」  指に力をいれると、軽い音を立てて赤い紐はチーズのように横に裂ける。女性は赤い紐が続く先を見つめると、時々朽ち切れて地面の苔と同化しかけていたが、それでも方向を見失う森の中を導くように、赤い線は奥へと続いていた。 「お師匠様、これが魔王の血の導きですか?」 「ええ。記録によれば、この線をたどることで森の出口や水場に着くそうね」  やはりこの本は本物だと女性は革鞄に手を置いて口元を緩ませる。南の山脈を越えた先にある国、その巡礼先の教会で偶然見つけたものだったが、まさか失われたこの世界の歴史を記した本の一部、それを解読した本を見つけるとは思わなかった。 「お師匠様、この先はどうしますか?」  赤い線をたどりながら、イリーナが女性に尋ねる。 「予定通りアリアスの街に立ち寄りましょう。あそこには魔王が人の身に扮して生活していた家があると本に書いてあったわ」   解読書の通りなら、魔王の力が目覚めるまでの数ヶ月の間、一般の宿を根城にしていたと書かれている。  二百年前の宿屋が残っているとは思えないが、最も古い店から何か聞けるのではないか。女性は僅かな情報も見逃さず、これまでも可能性があればそれを確認してきた。  真紅の神官服を身に纏い、龍の彫刻があしらわれた魔導杖を持つ女性の名はフォースィ。彼女の魔法は1つ1つが常識を超えた威力をもち、いつしか『十極』の字で呼ばれるようになっていた。  20代の若さと妖美を兼ね備えているが、正確な年齢は誰にも分からず、『王国最後の魔女』『不老不死の少女』といった呼び名すら存在する。 「さぁ、早く森を抜けましょう」 「はい、お師匠様!」  フォースィの後ろをイリーナが駆け足で追いかけた。
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