第三章

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「―――こうして私はタイサと顔を合わせないまま何年も時が過ぎ、ついに初めて顔を合わせたのがあの洞窟の………」  フォースィが指を立てながら語っていたが、イリーナは既に寝息を立てて丸くなっていた。 「………困った子ね。その格好じゃ鎧は脱がせられないのに」  フォースィはせめて、とイリーナの籠手と靴、そして羽兜を丁寧に外し、ベット代わりに敷いてある幌の上に寝かせる。  寝顔を見る限りでは、孤児院教会にいる年相応の子どもと変わらない表情。とても素手で人を殺せる顔には見えなかった。  羽兜を脱いだ彼女の髪は白く、うっすらと茶色い髪が混ざっている。フォースィは彼女の髪を何度も何度も軽く撫でた。 「いつか、髪の色が戻ると良いわね」  『使徒計画』で育てられた子どもは余りにも過酷な訓練で、髪色が全て落ちてしまう。その苦しみから解放された今でも色がほとんど戻っていないことから、その内容が言葉では表せないほどの世界だったということを無言で訴えてくる。  1人なったフォースィもついに口が大きく開き、肩の力が抜けた。 「母も、こうやって私を寝かしつけたのかしら」  百年以上前の母の記憶。もう殆ど顔も声も思い出せなくなってきているが、共に過ごした時の温かさや安心感、楽しさは今でも覚えている。  フォースィは小さくなった焚火に枯れ木を放り投げながら、長い夜を古書と共に過ごした。
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