一ノ章

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熊井武夫はすぐに全てを自供した。 愛人の大町妙子は殺人の共犯で逮捕した。 最初彼女は、アリバイは頼まれたが熊井が勝手にやった事だと否認したが、あるボイスレコーダーの会話を聞かせると、泣き崩れた。 それは熊井百合子が殺意を感じるキッカケとなった会話。 そこには、殺す段取り、アリバイの打ち合わせ、その後の事、全てが記録されていた。 探偵が大町妙子の部屋に仕掛けたモノだった。 違法に盗聴されたものだから、証拠としては問題があるが、犯人を落とすアイテムとしては使えた。 ある意味、衝動的で稚拙な犯行で、熊井百合子の証言がなくても遅かれ早かれこの二人は逮捕できたと思う。 でも、無駄な時間は掛からないに越したことはない。 そういうことで、俺の能力(本当はそう言いたくない)は役に立つと、係長が言う。 確かに役に立つことが多いが、万能じゃない。 俺の能力…… いや、ただの体質。 『霊が見えること、そして話せること』 ただ、それだけだ。 だから、今回の様に全ての事情が分かる場合もあるが、殺された被害者が犯人を見ていなかったり、そこを動けなかったりした場合、話を聞く事ができても何にも分からない。 まず、被害者のパターンとして、『自分が死んだこと』を理解する者としない者がいる。 そして、浮遊霊となる者とならない者、いわゆる地縛霊となる者がいる。 まず、理解する者はいい。 そして動けるなら、場合によって犯人を追って凶器をどこに捨てたか、どこに住んでいるのか、どこの誰かなどの情報が得られたりする。 それならいい。 でも困るのは、理解しなくて、さらに動ける者だ。 この場合、話し掛けると、その後、付いてくる場合が多い。 言い換えれば『()いてくる』だ。 放っておけば、いつまでも付き纏われる。 普通ならすごく大変なことだ。 霊によっては、簡単に除霊できないかもしれない。 まあ、俺の場合、家へ帰ればそれだけで終わる。 美冬さんが、ある意味、除霊してくれるのだ。 彼女の霊力はすごい。 だから、一度家に帰れば、その霊は俺に寄り付かなくなる。
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