一ノ章

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あと、俺の実家は神社だ。 京都の外れにある森川神社(もりかわじんじゃ)がそれだ。 「せいめい」と名付けた父親が現在の宮司。 だから、自分自身でもそれなりに除霊もできることはできる。 そして、そんな家柄も関係するのか、子供の頃から霊が見えた。 まずは、遠くからだと見た目では生者か死者か区別は付かない。 遠くからでも感じるからその辺の誰かが霊だとは分かるが、誰が霊かは、少し近付く必要がある。 霊だと分かると、面倒くさいが避けて遠回りしたりしていた。 仮に近づいた結果、視線が合うと、霊に認識されて話し掛けられた。 それは困る事ばかりだった。 一度捕まると、話を聞かされ、そして、大概は『お願い事』をされる。 それが簡単な事などほとんどない。 無理なのに、いつまでも付き纏われてお願いされる。 たまったもんじゃない。 だから、俺はあまり人と視線を合わせなくなった。 言っておくが、人見知りじゃない。 あくまで、面倒を避けるためだ。 霊自体、怖いといえば怖かったが、それよりも面倒だと思う気持ちが強かったのでよかった。 そうでなければ、小さい頃は怯えまくっていただろう。 ちなみに4つ下の妹、『あべの』も霊が見えて話せる。 彼女も怯えることもなく、いや、俺と違って霊を避けることもなく過ごしていた。 俺より霊能力は高い。 気が付いたかもしれないが、俺と妹の名前を合わせると、 『あべのせいめい』 ……… ふざけるな。 くそ親父。 由緒ある古き神社の宮司のくせに、安倍晴明の大ファンなのだ。 まあ、それはそれとして、そんな体質を俺はずっと隠していたが、刑事になって最初の殺人事件の時に、係長にバレた。 被害者と視線が合ったために付き纏われて、つい会話をしてしまった時に係長に見られた。 普通なら「おまえ、頭がおかしくなったのか?」と言われるところを、意外と鋭い係長の台詞は「おまえ、霊と話せるのか?」だった。 「まあ、そうですけど……」と、つい答えてしまった結果、それ以来現場では、被害者(霊)からの事情聴取を秘密裏にやらされている。 その結果、それなりに事件を早期に解決しているのは確かだ。 そんな事情を知らない課長からの信頼は何故か厚い俺たちだった。
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