三ノ章

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「ごめん、お金貸して」 あべのは悪びれる風ではないが、目の前でパンッと手を合わせて頭を下げた。 「あら、あべのちゃん、そういうことだったの?」 美冬さんが気が付かなかった風であべのを見た。 「だって、美冬さんには頼めないよ」 「まあ、そうだよね……私働いてないしね……」 美冬さんが少しシュンとした。 「あ、そういことじゃなくて!ぜんぜん気にしないで!そのためのお兄ちゃんだから!」 「おい」 なんだ、そのフォローは…… それよりも、こんなことで美冬さんを困らせないで欲しい。 「なんだ、また公演のノルマか?」 「えへへへ」 売れない劇団員あべのが舌を横に出してウインク。 お菓子系のマスコットで見た様な顔だ。 一見黒髪で和風な雰囲気なのに、こんな表情をする妹は魅力的なんだろうとは思うが、どうやらまだ彼氏はいない。
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