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外に出て、ドアを閉めたところで、
「あべの」
さっさと行こうとする妹を呼び止めた。
「なに?」
さらりとした黒髪が翻る。
「お前さ、あんまり美冬さんと関わるなよ」
俺は真面目な表情で言った。
「何でよ。私だって美冬さんのこと心配だよ」
あべのには美冬さんのことを話してあるから、状況は分かっている。
「そう言われると何だけどさ、彼女は精神的に普通じゃない。お前が関わることで何かあったら……」
「お兄ちゃん」
あべのが少し真面目な顔で俺を見た。
こういう時の視線は心の奥底を見抜く様な目ヂカラがある。
「言っちゃ悪いけど、お兄ちゃんだけの方が心配なんだけど?私が関わらなくても何かありそうだし、その何かがあった時に何とかできるのかな?」
「え?おまえな……」
そう言われると、ちょっと反論できなかった。
確かに、この5年は何もなくて良かっただけかもしれない。
「一人で抱え込まないの!」
「……はい」
俺は項垂れた。
階段の方にとぼとぼと歩き始めて、あべのが横に並んで俺を見た。
「それに、二人ともいつまでもこのままで……とはいかないでしょ」
「……ああ」
「本気でこの先のこと、考えてる?」
俺は自分のことについては答えられなかった……が、
「お前もな!」
売れない劇団員で、26にもなってフリーターで、実家に寄り付かない、そんな立場を暗に指摘した。
「てへっ」
あべのは頭を自分で小突くジェスチャーと、またさっきのマスコット顔。
「まったく……」
二人で笑いながら階段を降りた。
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