三ノ章

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外に出て、ドアを閉めたところで、 「あべの」 さっさと行こうとする妹を呼び止めた。 「なに?」 さらりとした黒髪が翻る。 「お前さ、あんまり美冬さんと関わるなよ」 俺は真面目な表情で言った。 「何でよ。私だって美冬さんのこと心配だよ」 あべのには美冬さんのことを話してあるから、状況は分かっている。 「そう言われると何だけどさ、彼女は精神的に普通じゃない。お前が関わることで何かあったら……」 「お兄ちゃん」 あべのが少し真面目な顔で俺を見た。 こういう時の視線は心の奥底を見抜く様な目ヂカラがある。 「言っちゃ悪いけど、お兄ちゃんだけの方が心配なんだけど?私が関わらなくても何かありそうだし、その何かがあった時に何とかできるのかな?」 「え?おまえな……」 そう言われると、ちょっと反論できなかった。 確かに、この5年は何もなくて良かっただけかもしれない。 「一人で抱え込まないの!」 「……はい」 俺は項垂(うなだ)れた。 階段の方にとぼとぼと歩き始めて、あべのが横に並んで俺を見た。 「それに、二人ともいつまでもこのままで……とはいかないでしょ」 「……ああ」 「本気でこの先のこと、考えてる?」 俺は自分のことについては答えられなかった……が、 「お前もな!」 売れない劇団員で、26にもなってフリーターで、実家に寄り付かない、そんな立場を暗に指摘した。 「てへっ」 あべのは頭を自分で小突くジェスチャーと、またさっきのマスコット顔。 「まったく……」 二人で笑いながら階段を降りた。
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