ニノ章

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「黒川さん」 「ん?」 「いろいろと、ありがとうございました」 彼女はそう言って村下哲也を抱き締めたまま、頭を下げた。 「いや、俺は別に……」 彼女はゆっくりと頭を振った。 そして、また頭を下げると、 「哲也、ごめん。……もう時間」 「え?」 「さようなら……」 その瞬間、彼女は淡く消えていった。 「えりか……」 彼にもそれが分かったらしい。 「えりか……」 そう呟いて、床に手をついた。 後は泣き続けた彼を、俺は見守るしかできなかった。
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