2 君が居た部屋

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 瀬田が出て行って三日目の夜、さすがに心配になった秋川は、悪いと思いながらも瀬田の部屋へと入ってみた。 鍵は掛けられていなかった。全くの初めてだった。  ルームシェアを始めるに当たって、いくら先輩後輩であっても同居人としては全く対等な立場で、プライバシーは尊重しよう。と取り決めた。 よって、お互いに一部屋ずつ占めている私室には行き来をしたことは、一度もなかった。  瀬田の部屋はキレイに片付いていた。 家具とかが特になくなっている様には見えなかったので、秋川は一安心した。と言っても、家具類は衣装ラックとベッドと本棚だけだった。  本棚には写真立てが一つだけ、飾られている。 ガラス越しに七年前の秋川と瀬田とが笑っている。水泳部の、秋川の代の卒業記念写真だった。 案の定、瀬田の顔はほとんど変わっていない。秋川ももちろん貰っているはずだったが、何処へやってしまったのか全く記憶にない。  その、写真立ての後ろに仕舞われている本のタイトルを秋川は目で追う。 『カジュアルワイン入門』 『二千円以下で買える安旨ワインリスト』 『デイリーワイン決定版』 その中の一冊を手に取り、何とはなしにページをめくっていた秋川は、挟まれたメモを見つけた。 『白:スッキリとしていて、香りが花の様なもの。例)ヴィオニエ、ゲヴィツトラミネール、セミニョン。     
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