330人が本棚に入れています
本棚に追加
此処が、男二人でルームシェアをする殺風景な居間などではなく、高級フレンチかイタリアンレストランだったのならば、瀬田と同じテーブルの真向かいに座る女性はもれなく、恋に落ちることだろう。
この上、瀬田がワインの知識まで身に付けたのならば、向かうところ男の敵無しだった。
秋川はサラミのスライスをつまんだ。ドンピシャだった。脂を洗い流す為に又、ワインを口にすると飲むのが止まらなくなりそうだった。
「瀬田、おまえがワインを飲めてよかったよ」
「え・・・?」
秋川は酒が好きだったが哀しい哉、余り強くはないことを自覚している。ビールも日本酒も飲めることは飲めるのだが、何と言っても一番好きなのはワインだった。
瀬田と一緒に暮らす前までの秋川は、ワインバーなどで気になる銘柄を一、二杯ずつ味見がてらに飲んでいたのだが、瀬田が下戸ではないのを幸いに、最近では専ら外では主にミクリヤで、内ではこの部屋で買い求めたフルボトルを付き合わせていた。
「フルボトルのワインは二人で飲むのにはちょうどいい量だ。って、昔読んだ小説にそんな言葉が出てくるんだ。本当にその通りだって思うよ」
「・・・・・・」
瀬田は黙って空になったグラスへと視線を落としていた。
もう酔ってしまったのだろうか?と秋川は一瞬思ったが、真顔だと人形じみて見える整った顔には、少しもアルコールの影は差してはいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!