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この、秋川よりも二歳年下の後輩は、すっきりとした見た目によらず酒に強い。
少なくとも、ワインだったらハーフボトル(グラス約二杯半)分を飲み切るのがギリギリの秋川よりは強いのは確かだった。
実際、秋川は未だに瀬田が酔っ払っている姿を見たことがなかったので、本物なのかも知れない。
催促がましいことはされなかったが、秋川は空いている瀬田のグラスへと二杯目を注いだ。断られもしなかった。
「・・・営業一課の佐伯さんとも、フルボトルを一緒に飲んだりしたんですか?」
「え?どうして佐伯さんの名前が出てくるんだ?瀬田、おまえ、佐伯さんと知り合いなのか?」
秋川の問い掛けには答えずに、瀬田はワインを半分程一息で飲み、ようやく口を開いた。
「わざわざ、デザイン部にまで来たんです。昼飯についてきて、おれと先輩とのことを色々と尋ねてきました」
「それって何時のことだ?」
「三日前です。確か先週、めずらしく先輩が遅く帰って来た日がありましたよね?酔っ払って。・・・あの夜は、佐伯さんと一緒にフルボトルのワインを飲んでいたんですか?」
「か、関係ないだろ!おまえには」
飲んでいない。と完全には否定をしない秋川を、瀬田は無表情のままで見つめた。
「関係ありますよ。佐伯さん、おれに宣戦布告してきたんですから」
「宣戦布告・・・?」
ぼんやりとオウム返しをする秋川を眺めながら、薄っすらと笑う瀬田の姿は、秋川がよく見知っている礼儀正しくてよく気が付く後輩ではなかった。
全くの別人だった。
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