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就業時間中、経理部へとやって来た佐伯に話があるから。と、秋川はほとんど一方的に外で、しかも二人切りで会う約束を取り付けられた。
指定されたのは佐伯の行きつけのウェイティングバーだった。その店(住のゑといった)の最も奥の、半個室で秋川は佐伯と差しで向かい合った。
こう、しげしげと佐伯の顔を見るのは秋川はモチロン初めてだったが、なるほど、昼間に同じ部署の女性社員たちがざわついていたのがよく分かる。
格好がいいのだ。瀬田の様な若々しい可愛げはないが、代わりに大人の男の自信と余裕とがにじみ出ていて、それがまたしっくりと板についている。
こんなに、良くも悪くも目立ちそうだったら、社員食堂で会っていたら少しは憶えていそうなものを。と秋川自身も不思議だったが、事実だった。
「・・・そうか、それは残念だが致し方ない」
この世の終わりも斯くや、といった芝居がかった嘆きっぷりすらも自然に見える。
「では、初めまして、だな。改めて秋川慎一君、私と付き合ってみる気はないか?」
「せっかくですが、お断りします」
秋川の即答にも、佐伯はめげなかった。
何故、駄目なんだ。今、付き合っている相手がいるのか?いないのならば、付き合うだけ付き合ってみてはどうだろうか?と、怯むことなく矢継ぎ早に、それそこ夜討ち朝駆け?の営業イズムで自分のペースへと持っていこうとする。さすがは営業一課のエリートと言うべきか。
しかし、秋川は揺らがなかった。
「今現在、付き合っている人はいませんが、佐伯さんとお付き合いすることは出来ません。そういう相手として佐伯さんを見ることはないと思います」
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