3 フルボトルをめぐる攻防

8/13
前へ
/36ページ
次へ
 勝手にしてください。と突き放せる程に秋川は非情ではなく、しかし、そこまで想ってくれるのならば。と絆される程にバカではなかった。  ただただ、佐伯劇場のオンステージの幕が下りてくれるのをじいっと待つしかなかった。  秋川は目の前に置かれていた白ワインを一息で飲み干す。少し温くはなっていたが、すっきりとした酸味が美味しかった。 此処はいいバーなのかも知れない。こんなことでは来たくはなかった。と秋川は思った。 「話が終わったんでしたら、帰らせてもらいます」 「今夜は来てくれてありがとう。ここは私に払わせてくれ」 「これで最後だったら、ご馳走になります」 「・・・わかった。君は物堅いな」  秋川は一礼をし、先に席を立った。 バーに居たのはものの三十分程だったのに、酷く疲れた。  このまま真っ直ぐと、自分の部屋へと帰るのは秋川は嫌だった。何故かは判らないが、今直ぐに瀬田と顔を合わせたくはなかった。  瀬田は未だ帰って来ていないかも知れないし、ましてや瀬田には何の関係もないことだというのに・・・・・・
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

330人が本棚に入れています
本棚に追加