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瀬田はついさっき、秋川へと食って掛かったとは別人の様に、暗く沈んだ表情で言った。
「・・・先輩が佐伯さんを断ったのは、男だったからですか?」
「それもあるのかも知れないけど、全く知らない相手だったからかな。いきなり付き合おうと言われても、ハイそうしましょう。とは言えないさ。向こうはどう見ても、お友達からって感じじゃなかったし」
「そりゃそうでしょうね・・・でも、佐伯さんは先輩のこと、一目惚れだったって言ってました。それって、いきなりじゃないですか?」
「信じられないよな。一目惚れだなんて」
正直なところ秋川はもう、佐伯の話をしたくはなかった。
笑い話に出来る程、日は浅くない。だから、知らず知らずのうちに口調が投げやりに、何処か他人事になっていったのかも知れない。
瀬田が言った。
「一目惚れが信じられませんか?おれも先輩のこと、一目見て好きになりました。それも、おれのことも信じられませんか?」
「瀬田・・・」
「知らない人とは付き合えないんだったら、大学時代の後輩で、今は一緒に暮らしているおれとだったら付き合えますよね?」
瀬田はグラスの中のワインを全て飲み干し、向かいのソファーへと座る秋川の元へと歩いて来た。
そして、秋川の前でラグに直接膝をつき、目線を合わせささやく様に告げる。
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