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「おれじゃ、ダメですか?おれじゃ、先輩のこと、幸せにしてあげることは出来ませんか?」
瀬田の右手が、右腕が秋川へと伸ばされる。
秋川は我知らずソファーの背もたれへと、限界までに寄りかかっていた。クッションを掴む秋川の右手を、瀬田の左手が覆い、握りしめた。
「先輩・・・・・・」
秋川が掛けている眼鏡が、瀬田の手によって取り払われる。
たちまちピントは失われ、秋川の視界はぼやけた。秋川の左頬に、瀬田の手の平が触れた。
その手がそっと、しかし有無を言わせない強い力で、秋川の顔を上へと向かせた。
震える唇で、声で、秋川はやっとのことでつぶやく。
「・・・酔っ払っているのか?」
眼鏡を掛けていない秋川の目にもハッキリと見える程に、瀬田の顔は近くに来ていた。
近くで見れば見る程に、造り物めいた整った顔だった。今は不気味にすら見える。
「酔ってなんていませんよ。酔っていた方が都合がいいのなら、そういうことにしておいてくれても、おれは一向に構いませんけど」
「瀬田、おまえはおれにとって大学時代の後輩で、今は同じ会社に勤めるルームメイトだ」
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