3 フルボトルをめぐる攻防

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 瀬田の、人をバカにした様な薄く笑った顔と声とに、けして苛立ちを覚えなかった訳ではない秋川だったが、努めて冷静に事を治めることだけを考えた。  しかし、瀬田にはまるっきり効かなかった。 「おれにとっては、先輩は一番大切な人です」 これでも未だ、信じてもらえませんか?と恐らくは、瀬田。と言おうとした秋川の口へと、瀬田は口付けた。  それは極めて軽く、ほんの一瞬だったが、秋川は弾かれた様に立ち上がり、瀬田の手を振りほどいて、居間を後にした。 「先輩!」  背中を叩く瀬田の叫びを秋川は全く顧みることなく、自分の部屋へと戻った。鍵こそ掛けなかったが、その扉は閉ざした。 「先輩、おれ、本気なんです。本気で、先輩のことが好きなんです」 「・・・・・・」  一般的な集合住宅なので、部屋のドアはけして厚くはない。 直ぐ向こう側の廊下で、瀬田がどれ程の激情を押し殺そうとしているかが秋川には自分のことのように判って、感じられて、苦しかった。 苦しくて、声が、言葉が全く出て来ない。 「それだけは、信じてください。お願いします」  絞り出すようにして告げられた瀬田の言葉は、秋川にとってはほとんど凶器だった。 真っ直ぐ故に鋭く、鼓膜に、胸に、心にと突き刺さる。  しかし、秋川は断末魔の呻き声も上げられないままに、暗い自分の部屋の、ドアの前へと立ち尽くしていた。  向こう側の、瀬田の気配が消えてなくなるまで。      
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