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一際大きな稲光が窓の外に走り、三拍程遅れて低く鈍い音が轟いた。途端に室内の照明が消えた。
ブレーカーが落ちてしまったらしい。確か、玄関のドアの上に在ったはずだと、復旧をするべく玄関へと向かった秋川はそこで、立ち尽くす瀬田の姿を見つけた。
一目で、夕立に当たったのが判る程に全身がずぶ濡れだった。
「近くまで来たら、雨に降られて。先輩は居るだろうとは思ったけど着替えたくて、それで・・・」
「瀬田っっ!」
思わず、秋川は瀬田へと抱きついていた。
今ここで、瀬田を再びこの玄関から一歩でも、外へと出してしまったのならば、もう二度と会えない様な気がしてならなかった。
「・・・先輩、濡れますよ。離してください」
右耳のすぐ横で聞こえる瀬田の声は、酷く冷たく秋川には聞こえた。
初めて聞く声だった。
「嫌だ。絶対に嫌だ。離したらおまえは又、出て行くに決まってる。だから嫌だ」
「着替えたいんです。離してください」
繰り返し言う瀬田の凍えた声とは裏腹に、秋川は怒りで体が熱くなるのを感じた。
「瀬田、おまえ、今まで一体何処に・・・」
「離せって言ってんだろう!!聞こえないのかよ!」
泊まっていたんだ?と問い掛けた秋川は、それこそ雷に打たれたかの様に一瞬その体を震わせ、ようやく瀬田から離れた。
うつむく秋川がの頭上に瀬田の声が、言葉が降り注ぐ。
「すみません。怒鳴ったりして」
何時もの、秋川が聞き慣れている柔らかな瀬田の声だった。
「いや、俺の方こそすまない」
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