330人が本棚に入れています
本棚に追加
秋川は素直に謝った。いくら物理的に瀬田の体を引き留めたところで、どうにかなるものではない。
そういう問題ではないことは、秋川にもよく判っている。
秋川は顔を上げて、言った。無理矢理に笑ってみる。
「入って、早く着替えろよ。あ、その前にシャワー浴びた方がいいな。風邪引くと・・・」
いけないから。と最後まで、秋川は言い切ることが出来なかった。
秋川の顔は、口は瀬田の肩口によって全く塞がれてしまった。
濃い、水の匂いがする。雨に濡れたせいだろうが、大学のプールと同じ匂いだ。と秋川は思って、めまいがした。
そんなことは有り得ないのに。
「先輩は悪くないです。何も、悪くないんです。だから、謝らないでください」
左耳へと直に吹き込まれるかの様に、ささやかれる瀬田の声は今は熱い。と秋川は思う。
秋川の体をかき抱く瀬田の腕の力は強く、見動きが全く取れない秋川はただただじいっとしていた。
「・・・・・・すみません。シャワー浴びて、着替えてきます」
瀬田は秋川の体を放して、玄関から室内へと入った。
「瀬田!」
恐らくは、自分の部屋へと寄ってからバスルームへと向かうであろう瀬田の背中を、秋川の声が叩く。振り返り、微かに笑って瀬田が言った。
「もう、黙って出て行ったりはしませんから」
「あぁ・・・」
最初のコメントを投稿しよう!