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「周りには沢山の人がいたのにみんな見てるだけで、中には笑う人もいて……星宮さんだけがすぐに駆けつけてくれた、それがすごく嬉しかったんです。それからあなたを見かける度にドキドキして好きだということに気づいたのに、あなたはいつも桃花さんしか見ていなかった」 佐藤さんは言葉を切り、ふうと大きく息を吐いた。 「私、桃花さんの事も好きだったんです。経理に配属されて上司と馬が合わずトイレで落ち込んでいた時、桃花さんが話を聞いてくれたんです。それから顔を合わせる度に心配してくれて、ご飯とか行くようになって……桃花さんはいつも星宮さんの事を話してました。それはそれは楽しそうに」 風早さんが水の入ったグラスを佐藤さんの前に置くと、ありがとうと頭を下げた彼女はグラスを火照った頬に当て、気持ちよさそうに目を瞑った。 誰も言葉を発せず、静かな(とき)が流れた。 「だけど、桃花さんは星宮さんじゃない人を選びました。桃花さん言ってました。『星宮君の事は本当に好きだった。だけど、30過ぎた今から恋愛して結婚するという勇気がなかったの。今の彼は両親も大切にしてくれるし、仕事を続けてもいいって言ってくれたから』って。桃花さんにその人の事を好きか聞いたんです。そしたら『うーん、嫌いじゃないかな。それくらいが結婚するには丁度いい気がするの』って。好きじゃない人と結婚するなんて私にはさっぱり理解できませんでした。だから、星宮さんの事を諦めない事にしたんです」 パチパチパチと拍手が聞こえた。 はっ、あの人何やってるんだ? 小桜さんがカウンターの端っこで、立ち上がって拍手していた。
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