917人が本棚に入れています
本棚に追加
カツカツという靴音と共にパシンと大きな音がした。
「薫、ちょっとは加減しろよ」
カウンターを出た風早さんが薫さんに近づき、手を取った。
「あんな奴殴ってお前の大事な手が傷ついたら困るだろ」
「だって……」
「分かってる。お前の代わりに後で俺が殴っとくから」
「そんな事言って殴らないんだろ」
「まあ……。でもきっちりと反省はさせる。出来なければ出禁にするから。だから、機嫌直して。薫には笑っていて欲しいから」
「御影……」
見つめ合う2人に、小桜さんが頭をさすりながら出禁は嫌だと抗議する。
あれ、これ大丈夫か?
慌てて佐藤さんを見ると、すごく眠そうに半分目を閉じていた。
さっきまであった小桜さんへの同情は跡形もなく消えているが、バーベキューの事だけははっきりさせないといけない。
「佐藤さん、起きて。あのさ、佐藤さんは小桜さんとバーベキューに行くんだよね?」
もしそうなら、今言った俺への告白は嘘になる。声を大きくした俺を不思議そうに眺めながら、佐藤さんは首を左右に振った。
「小桜さんとバーベキューに行くのは受付のりっちゃん。りっちゃんは小桜さんの事が良いって言ってて、私が星宮さんを誘えたら4人でバーベキューしようって言ってたんだけど、星宮さんダメって……。だから、私はお留守番です」
こ、ざ、く、らー。
確かに佐藤さんと2人で行くって言わなかったけど、あの流れだと誤解するだろ。
小桜さんを殴りにいこうとしたら七翔君に止められた。
「志季さん、僕に殴らせて。もう我慢できない」
すごい形相で小桜さんに向かう七翔君を、今度は風早さんが止めた。
「七翔、落ち着け。確かに腹は立つけど、こいつにも多少だか同情の余地はある。一応こいつのお陰で志季君が誘いから逃げられたんだし」
「…………」
「薫にも言ったけど、俺がしっかり絞めとくから2人とも許してやってくれ」
風早さんに頭を下げられたら引き下がるしかない。
「それよりタクシー呼ばなくて大丈夫か?佐藤さん、寝ちゃいそうだよ」
最初のコメントを投稿しよう!