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「みんなお腹空いてない?」 風早さんが炊飯ジャーを開けると、ふんわりと美味しそうな匂いが漂う。 「それって栗ご飯?」 「そう。スーパーで良い栗があったから炊いてみたんだけど、食べれそう?」 「食べたい」 「俺も……」 「俺は栗羊羹でいいよ」 はしゃぐ七翔君と俺を他所(よそ)に、薫さんは甘いものにしか興味を示さない。 風早さんは茶碗に栗ご飯をよそい味噌汁と漬物と共に俺達の前に出してくれる。 「味噌汁はインスタントだけどね。でも最近のフリーズドライはすごいよね」 ネギと豆腐とあげの味噌汁だが、具がインスタントとはとても思えない。 「俺はいいのに」 「体が心配だから、一口でもいいから食べて」 「分かった」 少な目によそった栗ご飯を薫さんが手に持つと、風早さんが嬉しそうに笑った。 「うまいよ」 「栗がゴロゴロ入ってて美味しい」 「すごく美味しいです」 「良かった。お前も食べろ」 小桜さんの前にも栗ご飯を置く。 「いいのか?」 「味わって食べろよ」 「ああ」 さすが食べ盛りの七翔君は2杯もお代わりし、余ったら朝食用におにぎりにして欲しいと風早さんにねだっていた。 「志季君、お代わりは?」 「すみません、お腹一杯です」 「志季君は体の割に少食だね」 「昔は七翔君位食べてたんですが……」 「まあちゃんと食べてるだけいいよ。薫みたいに甘いものばかりだとなぁ……」 チャッチャと栗ご飯を食べ終わった薫さんは、うっとりと栗羊羹を食べている。ケーキだけじゃなく、和菓子も大好きみたいだ。 「今度は栗羊羹作ろうかな」 幸せそうな薫さんを見ながら、風早さんが悔しそうに呟いた。
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