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駅前のイルミネーションを捉えた瞬間、もうすぐクリスマスだということに気づいた。12月に入ってから殺人的に忙しく薫さんのケーキ屋にも風早さんのバーにも全く行けていない。
心配していた佐藤さんとの関係もあれ以来進展はなく、日にちだけが飛ぶように過ぎていく。
住宅街に入ると急に寒さが増したように感じ、駅から徒歩10分という立地で決めた我が家が果てしなく遠く思えた。
かじかんだ手をこすり合わせながら空を見上げると、白い息の向こうに冴え冴え《さえざえ》と輝く月が浮かんでいる。
冬の月は好きだ。
その凛とした姿にしばし見とれていると、背中にぞくりと悪寒が走り思わずくしゃみが出た。
七翔君と過ごす年末を風邪でダメにする訳にはいかない。帰ったらすぐに熱いシャワーを浴びて、温かい物を食べよう。
━━さっきのコンビニでおでんを買えば良かったな。
少し後悔しながら何とかマンションにたどり着き、鞄から鍵を出すと………
「七翔君、何してるの?」
ドアの前でうずくまっている七翔君を見つけた。
「志季さん……お帰り……なさい」
寒さで口が回らないのか、言葉がたどたどしい。
「とにかく入って」
びっくりするくらい冷たい手を引っ張って立たせ、抱き抱えるようにしながら玄関に入り靴を脱がせて風呂場に連れていく。
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