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1週間後、転勤の辞令は俺じゃなく桃花さんに下りた。
「関西ですか?」
「そう、実は前から異動願いを出してたの」
桃花さんが嬉しそうに笑った。
もしかして……。
嫌な予感は当たるものだ。
「私、結婚するの。もう32歳だし、子供生むならギリギリだから。星宮君には本当にお世話になりっぱなしだったわね」
「世話なんかしてません。むしろ俺が桃花さんに世話になりっぱなしで……」
もし男として桃花さんが頼れる存在になっていたら、俺にも少しはチャンスがあったかな?
悔しくて唇を噛むと、桃花さんが俺の頬に指を突き刺してグリグリしだした。
「痛いです」
「分かってる。だから、噛むの止めてね」
「はい」
やっぱりこの人にとっては、俺は後輩でしかないんだな。
「星宮君には本当に助けられたのよ。初めての転勤でここに来て、頑張ろうとする気持ちだけがから回って、何もかもが悪い方向に転がって足掻いて、あの時はあなたにもずいぶんきつく当たったわね。でもそんな私に、あなたは全力でついてきてくれた。嬉しかったな」
ふわりと笑う桃花さん。
彼女にこの笑顔をさせているのが自分だというだけで満足だ。
でも、最後だから言わせて欲しい。
「桃花さん、ずっと好きでした」
俺の告白に全く驚くことはなく、桃花さんは目を伏せた。
「遅いよ」
「えっ?」
「遅すぎるよ。せめて半年早ければ、星宮君の告白を受けてたかもしれないのに」
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