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用意が終わり玄関で靴をはいていると、昨夜ドアの前でうずくまる七翔君を見つけた時の事を思い出した。
「お待たせしました。下着と歯ブラシありがとうございました」
「いや。七翔君手を出して」
首を傾げながら七翔君が出した手のひらの上に、ポトンと持っていたものを落とす。
「これ……」
「この部屋の鍵。昨日みたいに待たれると心配だから、俺が遅いときは先に入ってて」
「いいんですか?」
「うん。合鍵渡すなんて初めてだから、いつでも入っていいよとか言えないんだけど……。もうバレてると思うけど、俺家事とかそんなにしないから部屋が散らかってる時もあるし」
1人暮らしを始めてからなるべく綺麗にしようと気をつけてはいるが、掃除は休みの日にしかしないし、洗濯も2、3日に一回だ。慌ててる時は部屋着を脱いだまま寝室の床に放って置くときもあるし、使用したコーヒーカップを流しに置きっぱなしで出かけるのもざらだ。
「嬉しいです。志季さんがいない時に勝手に入ったりしませんから」
「ごめん。でも、緊急事態は別。昨日みたいに突然の時は使ってもらって大丈夫だから」
「はい」
ニコニコしながら鞄からキーホルダーを出し、合鍵を通す七翔君を見ながら言葉を付け足す。
「そうだ、次来るときは歯ブラシとか着替えも持って来て」
「え?」
「そしたらいつでも泊まれるだろ」
「………はい。僕、こんなに幸せでいいのかな」
合鍵を渡しただけでこんなに喜んでくれるなんて思わなかった。
朝出来なかった分も含めて、七翔君をぎゅっと抱きしめた。
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