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9日、いや10日か……。
せっかく合鍵を渡したのに次の日から予定が合わず、七翔君とは全く会えていない。まあ、電話やメールで毎日連絡はとっているけど。
七翔君の明るい声を聞くと、疲れていた気持ちがふわりと軽くなる。電話なんて用件さえ伝われば十分だと思っていた俺が、いつまでも話していたいと思うんだから不思議だ。
「今日ね」と1日の出来事を話してくれるんだけれど、代わり映えのしない社会人と違って学生は色々な事があり驚く。
例えば、合鍵を渡した日、早家に帰帰った七翔君はご両親に大学をきちんと卒業すると約束をし、改めてパティシエになりたいと思ったきっかけや真剣な思いを説明した。
「ご両親は何て?」
「頑張りなさいって言ってくれました」
「良かったな」
「はい。薫さんにも伝えました。みんな本当に優しくて……」
薫さんと今後の事を話し合った結果、七翔君は一年間専門学校に通うことになった。専門学校では基礎を学び資格の取得もできる。費用は貯金とバイト代でまかなうみたいで、夜か土日に授業がある学校を探すみたいだ。
真剣な話しばかりじゃない。
「ゼミの教授がね」
一泊二日のゼミ旅行から帰ってきた日、七翔君は教授の行動が可笑しかったと言ってずっと笑っていた。
「志季さんは?」
「俺?そうだな、小桜さんが謝ってくれたよ」
トイレでばったりあった時に小桜さんが話しかけてきた内容を詳しく話した。
「星宮君、俺、すごく反省してるんだ。御影にも怒られたよ。あの拍手は本当にまずかった。星宮君を不快な気分にさせ、佐藤さんに変な期待を持たせ、七翔君を不安にさせたんだから」
「もういいですよ」
「許してくれる?ごめん、この通り」
「………今回だけですよ」
テレビの謝罪会見のような見事なお辞儀をされたら許すしかなくなってしまった。
七翔君の笑い声が響く。
「確信犯ですね」
「だな」
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