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駅前にある喫茶店に入りカウンター席に座ると、桃花さんは店内をキョロキョロと見回した。
「なんか不思議。引っ越してからまだ数ヶ月しか経ってないのにすごく久しぶりな気がする。ここのコーヒー大好きだから飲めなくなって寂しいなって思ってたんだ。私ブレンドにするけど星宮君は?」
「俺も同じで」
「了解、マスターブレンド2つね」
注文する桃花さんの横顔を見つめ、テキパキしている所はちっとも変わってないと嬉しくなる。
入社当初は桃花さんの事を苦手だと思っていた。挨拶が出来てない、気が利かない、動作が遅い、何でもすぐに聞くな、もっと仕事に貪欲に等…新人でも関係なく桃花さんにはすごくよく叱られた。
MRに向いてないのではと落ち込んだ日もあったけれど、病院の先生に「新人なのにきちんとしてるね」と誉められた時初めて桃花さんに感謝し、桃花さんの厳しさは俺を一人前に育てようとする優しさだと気づいた。
「仕事はどう?」
「何とか頑張ってます」
「そう、良かった。ねえ星宮君、なんか変わった?」
「そうですか?自分では全く気づかないです」
「うーん、なんとなく雰囲気がね。あ、彼女できたでしょ」
びっくりしてコーヒーを吐き出す所だった。
「えっ、どうして……」
「違うの?」
「………違わないです」
「やっぱり。良かったね」
「はい」
あれ、以前はこんな風に言われたら俺には全く興味がないと言われたように感じて落ち込んでたのに、今日は全然平気だ。
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